【今後のアプリ開発のヒント】医療業界と予防業界の視点の違いから見えることは?(異業種座談会)

インタビュー | 2016年10月4日 火曜日

我々Health App Labでは、健康アプリが飲み薬のように、医療や予防に役立つ“情報薬”として普及していくだろうと想定し、国内外の動向をウォッチしてきました。海外に続き、ついに国内でも医師からアプリやウェアラブルが処方される動きが見られるようになってきました。
しかし、処方されたアプリを使い続けるかどうかは、利用者本人に委ねられてしまい、健康行動が続かないことで、効果に結びつかないケースも多く見られます。
「どのようにして継続利用に繫げるべきなのか?」
その1つとして、治療やアドバイスを行う医療側とツールやコンテンツを提供する予防側との連携がポイントになるのではないでしょうか!?

アプリ開発者のインタビューをお届けしてきた当コーナー、今回は医療側として製薬会社であるファイザー株式会社から金生良太(かのうりょうた)さん(以下、敬称略)、予防側として当研究員でもある、食事記録サービス“あすけん”を運営する株式会社ウィットの天辰次郎(あまたつじろう)さん(以下、敬称略)の両マーケッターに登場いただき、お互いの立場の違いを知り、もっと医療と予防が寄り添えるポイントを探していきたいと思います。
2回に分けてご紹介する異業種座談会、その1回目をどうぞ!

ヒアリング&撮影:渡辺武友
取材日:2016年9月12日

2016-09-12attendee

出席者/左から、天辰さん、金生さん

 

医療、予防における課題と取組みの相違点

渡辺 「まずは、それぞれ自己紹介からお願いします」

天辰 「天辰次郎です。経歴としてはインターネットリサーチ会社でリサーチやデータマイニングなどに従事するところから始まり、外資メーカーやコンサルティング会社でマーケティングを手がけてきました。2007年に社員食堂を運営するグリーンハウス(ウィットの親会社)が自社資源を活かして、特定保健指導に参入するため、その立ち上げを行う際に声がかかりグリーンハウスに入社しました。
そしてスタートした“あすけん”は事業開始から9年が経つところです。初期のころはずっとゆっくりとした成長だったのですが、2014年のスマホアプリ対応をきっかけに急激にユーザー数が伸び、会員数はもうすぐ100万人を超えるところまできています。
現在は“あすけん”のマーケティングや、企業とのコラボレーションやアライアンスを担当しています」

渡辺 「ありがとうございます。金生さんお願いします」

金生 「金生良太と申します。私はファイザーに入社して最初にMR(医薬情報担当者)をやっておりました。主に生活習慣病に関係するような、高血圧や、高脂血症など循環器系の薬剤を担当していました。
2007年から本社に異動しまして、トレーニング、人事、経営企画、営業戦略の各部門を経験し、2015年からCenter of Excellenceという新しい部署を立ち上げ、マーケティングを担当しています。
医療環境の変化も一層激しくなっていく中で、今後どうやってビジネスを進めていくのが最適なのか?を主に検討しています。
特に、メインフォーカスエリアとしてはデジタルを中心とした新しいテクノロジーを、どう活用していくのかが非常に大きなテーマです。製薬産業は専門性の高い業界なので、比較的他産業との接点も限られており、新しいアドテクノロジーなどを簡単に導入することができないところもありますが、常に進化するテクノロジーの動向をサーチして、うまく取り組めることはないか検討しています。
今回のような機会は、まさに新しい試みだと思って楽しみにしていました」

渡辺 「ありがとうございます。どんな話しになるか皆目検討がつかないですが(笑)
早速、お互いの立場による“違い”などを聞いていきたいと思います。まず金生さんから、顧客に関して、顧客とは医師であっても患者さんであっても構わないのですが、課題や、それに対して行っているアプローチ、もっとデジタルを使ってこんなことしていきたいなどお聞かせください」

talking-kanou金生 「我々のエンドユーザーはもちろん患者さんですが、直接の顧客は医師、薬剤師などの医療関係者になります。疾患啓発等のダイレクト・トゥ・コンシューマーを行うこともあるのですが、基本的に我々は規制や仕組み、ルールとして、直接患者さんにアプローチすることはできません。
また、医療関係者、患者さんを問わず、我々に求められるニーズはとても幅広くあるのですが、基本的に保険医療の中での活動ですので、公的なルールの範囲内での活動に限定されます。患者さんや医師からはこういうことを求められているんだろうなとわかっていても、すべてに対応して良いわけではない、プロモーション上の表現に関してもそうですね。その辺りにジレンマがありまして(笑)そこが一番難しいところですね」

天辰 「どう表現するか難しいとは、具体的にはどのようなことなのでしょうか?」

金生 「例えば、自社製品の科学的なデータで安全性や効果については客観的に話せます。ただ一方で、医療従事者や患者さんからすると『詳しいことはわからないけれど、ファイザーさんの薬と、B社やC社など他の選択肢があったときに、どっちがいいの?』と素朴に知りたいのが人情ですよね!? しかし、我々は“一概に、単純化して良い悪い”は言えないわけです。科学的な裏付けのあるエビデンスやファクトであっても、患者さん1人1人にとっての意味合いは違いますし、一概に、絶対にどっちかがいいとは言い切れないのです。そこが間違って伝わらないようにしなければならないところが難しいですね。
わかりやすく伝えたいのですが、単純化できないのです。医療は専門性の高い領域になってきますので、専門家である医師が、いろいろな複合的条件、情報を加味したうえで、診断や治療の選択をしていきます。
ただ、少し変わってきたと思うのが、インフォームドコンセントの考え方が普及して、治療に関して患者さん自身の価値観などから一部治療を選択することができるようになってきました。患者さんも以前は医師任せだったのが、今は自分でも情報を仕入れて考えるようになってきました。
とは言え、患者さんも専門家ではないので、知識のレベルは違いますし、自分で選べと言われても困ってしまう。そのため、単純化した情報を求めてしまう傾向もあるわけです」

渡辺 「状況が変わってきたとは言え、情報提供の仕方はやはり課題になるのですね。
ここからはウィットさんについてお伺いしましょう。ファイザーさんとビジネスの仕組みもだいぶ違いますので、まずはその辺りを共有させてください」

asken_logo_japanese_A-2天辰 「“あすけん”は食事を記録したら、それに対して栄養素がどう不足している、あるいは摂り過ぎているかを伝えてくれるサービスです。過不足の判断基準は国の定める食事摂取基準に合わせていますが、医療分野には踏み込まないというスタンスを取り続けています。利用規約にも、『何がしか疾病、薬を飲んでいるような方についてはかかりつけの医師に相談してください』といった趣旨のことを明記しています。
実際に使っている方は、圧倒的にダイエットニーズです。利用者の8割が女性ですが、その中でも95%が“ダイエット目標”を設定して利用しています。
カロリー計算を目的に使い始める方が多いのですが、実際に入力をはじめると、栄養素が不足しているなどとコメントされて愕然とするようです(笑)それをきっかけに『野菜も食べるようになりました』『玄米を食べるようになりました』『果物を食べるようになりました』などが反応として出てきます。ただ痩せるのではなく、適切な栄養を摂りながらダイエットしていけるサービスになっています。
ビジネスモデル的には、月300円の月額課金です。無料で使うと朝昼晩と3食食事記録すればアドバイスが見られる“反省方式”ですが、有料だと朝昼の2食を入れるとアドバイスが出ますので、夜何を食べるとよいかがわかるようになっています。昼食べ過ぎていても夜で調整できるのです。
反省方式よりも、途中で改善ができるというところが評価されていまして、課金率も高いです。多分このようなアプリを使ったサービスの中では最も課金率が高いと思います。
他にも広告ビジネスや、法人契約、OEMでの提供も行っています」

金生 「法人契約とは健保などの指導で使われたりしているのですか?」

天辰 「健保の指導も一部は行っていますが、基本的に“あすけん”はシステム提供までで、直接の指導は企業側の産業医や保健師が行っています」

渡辺 「患者は何かしら病気になっていて、それを解決したいから医療機関に行っています。つまり目的が明確なのだと思います。ダイエットは、絶対やらなければいけないものではないですよね!?その辺りの意識はいかがでしょうか?」

天辰 「女性と男性ではまったく違いますね。女性にとって痩せるかどうかは“死活問題”だそうです!この辺りは男性にはわかりにくいかもしれませんが(笑)
男女で利用者の平均年齢もだいぶ違います。女性は20代半ば〜後半ぐらいですが、男性は40代後半〜50代になります。女性は美容のためにダイエットしている方が多いですが、男性は健康診断でキケンと言われたことがキッカケになっている人が多いです」

渡辺 「男性も女性とは違う意味で死活問題なのですね(笑)
病気を治すのと違ってダイエットの場合、つらかったら別に無理して続けなくてもいいと思いやすい側面もありますよね?」

talking-anmatatsu天辰 「セミナー等でもお話しすることが多いのですが、予防領域ではいかに欲求を満たすか、快感を感じてもらうかがすごく重要だと思っています。我々から見ると、医療は既に欲求が顕在化していると思うのです。苦しいとか不安とか、命の危険があって不安だとか、そのような“不快感”が顕在化されていて、それを改善するためだから、しっかりお金を払ってくれる。予防領域に比べれば継続的に、例えば薬を飲み続けるなどもしてくれると思うのです。その点、予防は最悪だと思ってまして(笑)、例えば『ケーキを食べれば甘くて快感だ』や『タバコを吸うと落ち着く』など、快感が得られるものを我慢しろと言うのが予防だと思うのです。運動は慣れてしまえば心地いいのですが、普段やってない方にとっては苦痛でしかないですよね!?
まさに、快感を減らして苦痛を増やす。本能に逆らってもらわなければならないのが予防の世界なので、継続してもらうのがすごく難しいです。
比較的健康業界に近いところでお金になっているサービスは、エステなどお金を払えば気持ちよくしてもらえるものだと思います。お店に行くとお姫様扱いしてくれて、マッサージされて気持よくなれる。実際には体重が落ちていなくても、むくみが取れて痩せたような気分にしてくれる。そのようなところが高額でも受け入れてもらいやすいですね」

渡辺 「医療の立場から見ると、どうなんですかね?」

金生 「疾患も幅広いので、おっしゃるように、例えば生死に関わる病気、例えば癌だったり、すごく痛みを感じるような病気の場合は、皆さん本当に必死で治療に取り組みます。
一方で、痛みなどの自覚症状がない生活習慣病は、検査値としては症状を把握できますが、ほとんどの場合、治療に対する意識が薄いですよね。
生活習慣病でも初期段階の人は、生活習慣を変えることにトライしますが、その取組み事態が難しいんですね。予防と同じでベネフィットよりストレスばかりを感じてしまう。
ちゃんと自分の健康意識を持って日常生活を過ごせればいいですが、簡単そうで本当に難しいですよね」

渡辺 「全員ではないですが、生活習慣病は健康的な行動が苦手な方が発症していることが多いので、正しい情報を提供したからと行動に移してくれるわけではないですよね!?より行動につなげるために何か提供しているのですか?」

金生 「治療のサポートとして、患者指導用のツールの提供をすることはあります。
私がMRの時に先生方に聞いたのは、『やっていることを止めなさい』と言われるのは結構難しいそうです。お酒を止めろ、タバコも止めろ、などですね。それよりも足す方が楽だそうです。『塩分を減らしなさい』ではなく『野菜も食べなさい』と足す方がまだ人間は精神的に楽だとのことです。
あとは、家族にうまく協力してもらう取組みですね。料理は奥様が作るのがほとんどだと思うので、家庭の料理から改善しないと生活習慣の改善は難しいことがありますので。
このような効果的な指導に役立つ情報をツールとして提供することはあります」

 

医療と予防における共通課題“継続率の向上”

taiking-12.06天辰 「製薬会社の方と話していると、“服薬継続率”についてよく話題になるのですが、その辺りについても、何か取組んでいるのですか?」

金生 「永遠のテーマですね(笑)
先ほど話したように、症状が自覚できるものであれば薬を飲み続けることもできるのですが、生活習慣病などは難しいですね。脳卒中や心筋梗塞などで、本当に取り返しのつかない、例えば麻痺が残ってしまうと、あとで後悔しても時すでに遅しと言うことになってしまいますので、そのようなことがないように地道に啓発するしかないのです」

天辰 「冒頭にお話があったように、薬の効果については言えないかもしれないですが、服薬継続率を上げるようなことについては、もっと直接的な情報発信などをしても問題ないように思えるのですが?」

金生 「血圧などは自分で測れるので、血圧が下がったことで治療効果も実感できるのですが、治療効果をなかなか見える化できないようなもので血糖値やコレステロール値のように血液検査が必要なものだったりすると、気軽にチェックすることができません。そのような治療効果の見える化みたいなものができると、違ってくるのかなと思いますが」

渡辺 「天辰さんの話しで、予防業界だったらエステなどは快感を与えてビジネスを成立させている例もあるとのことでしたが、予防業界の人たちでも、そこに気づけている人って少なくて、『どうやったら健康になれます』とか『どうやったら痩せられます』と言った手法だけ伝えているものが多いですよね。その行動が“つらい”ことを見過ごしたままきていると思います。
ウィットさんの場合は、オンラインサービスでどうやって快感に繋いでいるのですか?」

天辰 「お姉さんのキャラクターがいまして、食事入力するとアドバイス画面に出てきて、その人に褒められるかどうかがものすごいインセンティブになっていますね。よくユーザーインタビューなどで『褒められるとすごい快感!』と言われます。
あと食事記録に得点が出るのですが、その得点の高い低いとかでゲーム的な反応を示しています。2chに“あすけんスレッド”があるのですが、そこでどうやったら点数を上げられるのか、ユーザーさん同士が「攻略法」を紹介しあっていたりします(笑)」

金生 「ゲーミフィケーション効果があるのですね」

天辰 「そうですね。もう1つ効果が高いのがSNS機能です。ユーザーさん同士がコミュニケーションする場です。そこでコミュニケーションを1回でもしたことがあるかないかで継続率に雲泥の差が出ます。
ユーザーインタビューで『何でダイエット成功したのですか?』と聞いたとき『停滞期でつらい』みたいなことをダイアリーに書き込んだら、いろんなユーザーさんが『私もそんなことあったよ』などのコメントをくれたり、応援してくれたりしたそうです。
この辺りは、男性と女性でまた違うんですよ。僕も含めて男性はピンとこないのですけど(笑)、女性に聞くと、とにかく共感してもらうのはすごくテンションが上がるようです」

金生 「医療でも禁煙マラソンなど、みんなで励まし合ってやるものは効果が高いようですね。あと鬱病で引きこもりの方に向けたものなど、効果があると聞いたことがありますね」

 

 

今回はそれぞれの業界での課題と取組みについて共有しました。どちらも共通する課題は、生活習慣由来のテーマ(生活習慣病とダイエット)です。このテーマは、まさに両業界の知見、経験を活かして取組んでいくべきものではないでしょうか。
次回はITの活用、地域包括ケアへの取組みなどを議論していきたいと思います。
近々掲載しますので、少々お待ちください!!

 

>> 【今後のアプリ開発のヒント】医療業界と予防業界はテクノロジーにより連携していけるのか?(異業種座談会)

現在のアプリ登録数

アプリカテゴリー

デバイス