【今後のアプリ開発のヒント】医療業界と予防業界はテクノロジーにより連携していけるのか?(異業種座談会)

インタビュー | 2016年11月7日 月曜日

医療サイドからファイザー株式会社の金生良太(かのうりょうた)さん(以下、敬称略)、予防サイドとして当研究員でもある、食事記録サービス“あすけん”を運営する株式会社ウィットの天辰次郎(あまたつじろう)さん(以下、敬称略)の両マーケッターに登場いただき、実は“近いようで遠い”医療業界と予防業界の垣根を取り払うヒントを見つけていきたいと思い開催した座談会。今回は第2回目になります。

前回ではお互い立場は違えど、医療における患者、予防におけるユーザーに対して、どう継続行動させるかが共通の課題でした。今回は、両業界が接近していくためのヒントになることはないか?議論していきたいと思います。

ヒアリング&撮影:渡辺武友
取材日:2016年9月12日

2016-09-12attendee02

出席者/左から、天辰さん、金生さん

 

医療における患者支援の難しさ、テクノロジー導入の障壁

渡辺 「前回のお話しで、“あすけん”の継続率が高まる要因としてSNS機能がその1つとのことでした。
医療の領域でも利用率の高いオンラインコミュニティはありますね?製薬会社が直接運営などは難しいと思いますが、それらコミュニティを何かしら支援して、そこの情報を活用しようとか、そういう動きはあるのですか?」

金生 「そういう目的で患者さんのコミュニティを直接支援することはないです。我々が提供する情報はいかなる場合でもバイアスがかからないようにしなければならないのです。プロモーションに該当するようなコミュニケーションはプロモーションコードで制限されます。その場を活用して自社のプロモーションを行うことはできませんので」

渡辺 「患者さん同士がコミュニケーションすることによって安心感を得て、前向きに治療に取り組めるようになれば、より良いことですよね!?そのような『前向きに取り組んでもらうためのお手伝いをする』と言うことでも、プロモーションになってしまうのですか?」

金生 「んーっ、難しいでしょうね。製品のプロモーションが一切なくても、製薬企業が関与しているだけで誤解されることはあります。どんなに気をつけても、第三者が見たときに『それって…』と思われてしまうことはありますから。第三者からみて、社会貢献として実施していることと、商業目的で実施していることは明確に区別されなくてはいけませんし、結果良いことにつながるから大丈夫でしょうというわけにはいきません」

talking-anmatatsu02天辰 「最初のお話しで『デジタルを中心としたマーケティング』に注力しているとのことでした。今、注力している分野などはありますか?」

金生 「スタートしたばかりでして、まだまだ模索しているような状態です。ただ明らかなこととして、弊社がデジタルに移行する、と言うこと以上に、医療現場の中でデジタル移行が急速に進んでいると思っています。それは医療従事者の情報取得もありますし、今後本格化すると言われている遠隔治療なども含まれます。そのように見ていくと、将来確実に医療の業界も、他の業界同様にデジタル化が進んでいくのだと思っています。
我々の基本的な情報提供としては、MRという“人”を介して行ってきましたが、今はその活動を補完するものとしてデジタルの活用を模索しているところです」

天辰 「医師とのコミュニケーションのコアなところは引き続きMRの方が行うが、デジタルの力で効率化を進めたり、より深いコミュニケーションをしたりと言うことでしょうか?」

金生 「今のところは両方からのアプローチですね。まだデジタルだけで完結と言うわけにはいかないです。人を介しながら、コミュニケーションを取っていく意義もまだまだあります。
昔は本当に人海戦術で、1回会うより2回。2回会うより3回と、医師と話せば話すほど効果があると言われてきました。
今は医師も忙しくなって、以前ほどは会えなくなっています。ネットがかなり進化したのもあって、必要な情報は自分で検索する方も増えています。その一方、必要な情報が院内の関係者に届いていないこともあるので、その伝達にMRが直接赴いて行うことなどで役立っていることもあります。どのようなタッチポイントがあるのかを模索しているわけです」

天辰 「数年前にMRの活動の制約が増えたと聞いていますが、その影響もあるのでしょうか?」

金生 「それは大きかったです。今はMRの活動範囲や、活動内容自体もずいぶんと変わってきています。インターネットチャネルと、MRの人的なチャネルの棲み分けや、その特性も大きく変わってきたところです」

天辰 「僕らはITの領域でビジネスしていますので、ビッグデータやIoT、AI、あるいは遺伝子解析などがいつも話題になっているのですが、製薬会社さんの中ではどうでしょうか?」

talking-kanou02金生 「人では診断できなかったことがIBM Watsonで診断できたなど、うまくいったケースは良いのですが、これらテクノロジーを使うことで、もし医療ミスがあったり、患者さんが亡くなったときに誰が責任を取るのか?と言った問題が出てくると思うのです。現状はトライアルベースの段階で、我々としても、単純にツールを変えるだけではなく、そこに対するプロセスであったり、法規制であったりというところは今後整備していかないとならないと思っています。
もちろん可能性は非常に大きいと思うので期待はしています。ただ、やらなきゃいけないことがいっぱいありますよね(笑)」

天辰 「大変ですよね。そういった話になると、日本支社など国別の活動ではなくグループ全体で取り組んでいらっしゃるのですか?」

金生 「世界中もそうですし、ヘッドクォーターの方でも取り組んでいると思いますよ。それは弊社に限らず、世界の主要な製薬企業は皆さんやっているようです」

 

地域包括ケアは医療業界と予防業界連携のキーとなるか?


渡辺 
医療業界と健康業界は、知らない人からすると、すごく密接につながって活動しているように見えますが、実際はそれぞれの業界の範囲での活動に留まっていることがほとんどです。大きくは保険制度によるビジネスモデルに違いがあるためだと思いますが。
ユーザー視点では予防も医療も連携しているのが望ましい状態で、海外でも同じような問題はありましたが、モバイルヘルスの登場が予防と医療の連携に貢献したと言われています。日本では、“地域包括ケア”がきっかけの1つになるのでは?と思っています。しかし実際にはじまってみると、どう取組むとよいのか?まだ見えてきていない印象です。
お互いの立場から見ていかがでしょうか?」

金生 「そうですよね。確かに地域包括ケアは連携がキーだと思います。それは医療現場でも、本当に地域包括ケアをやろうと思ったら医師だけでなく、看護師や薬剤師、介護士など多職種の方と連携が必要です。違う視点では、病院間の連携もあります。大きな病院から、かかりつけ医院、さらに在宅へと、これら連携がうまくいって初めて成り立つことだと思います。
連携するためには“情報”が介在します。患者さんを中心として、携わる皆さんが情報をちゃんと共有して、状況を同じ目線で持っていることが重要なのだと思います。
ただし多くの方々が情報にアクセスするので、情報の取扱い、漏洩など対策が必要になります。特に病気は個人情報としてもセンシティブな情報が複数ありますので、しっかり管理していかなければならないですね。
一方で利害関係みたいなものも当然出てくることもあるでしょうから、そういったところで間違ったバイアスがかかってしまうのは良くないと思っています。実はとても難易度が高いモデルなのでしょうね。
現状うまくやれているケースを見ていると、最初は技術的なことよりも、携わる人たちが地域社会の中でコミュニケーションがうまく取れていく環境作りをしっかりやっているようです。
一方で、仕組みを優先して人を抜きにした議論から入っていくと、携わる人たちがついていけず、仕組みは設計したもののうまく機能していないように見えます。何ができるとか、仕組みとか、それは後にして、まずは理解しやすくコミュニケーションを取っておくと、いつかヒントは出てくるよ、くらいの関係性でいくのがよいのでしょうね!?」

渡辺 「天辰さんはどうですか?」

天辰 「地域包括ケアに位置づけられる案件も、すでに何度かお手伝いさせていただいています。“あすけん”の機能をご提供して、食事の記録や改善のサポートをさせていただくものが多いです。
様々なケースがありますが、食事単体ではなく、ウェアラブル機器と連携して運動も管理したり、そのデータを医師の方も確認して、アドバイスをできるようにしたりするなど包括的な取り組みにすることが多いように思います。
とは言え、今後、大規模に展開していくためには課題も多いと感じています。
いくつかの要因はありますが、正直なところ年配の方でITを活かしきれる方はまだ少ないということも感じます」

talking02

金生 「対象者は何歳ぐらいの方ですか?」

天辰 「60代後半くらいですね」

金生 「定年退職している世代ですか?」

天辰 「そうですね。50代くらいまでであれば、比較的自然とITを活用して健康増進という話しを受け入れられると思いますが。例えば“あすけん”のユーザー層の山(比率)を見ると、60代以上の方はかなり低い。アプリで健康増進をしようとの発想になる方が少ないという印象があります」

金生 「ただ、1番の課題は後期高齢者ですからね。75歳くらいですか」

天辰 「後期高齢者の方でも、実証実験フェーズで手を挙げてくださるような方は、やる気があってITも活用してくださいますし、よい結果に結びついています。ただ、それを一般化して日本全体に広がるような取り組みをするには、いくつかハードルがあります。例えば“ITだけ”で多くの方に参加していただくのは難しいと感じています。何か国レベルでも大きな動きがあればと思うものの、現状では局所的な取り組み・実証実験に留まっている印象があります」

金生 「先程も話しましたが、うまくいっているところは誰かがリーダーシップを発揮してコミュニケーションを取り合っています。仕組みの押しつけになっているところはダメですよね」

渡辺 「利用者のITリテラシーは、今の50代が、60代70代になっていけば問題ないことなのか?それとも、年齢と共にそういうリテラシーも下がるから、結局ITは難しいのか?どう思いますか?」

天辰 「それで言ったら前者ですね。やっぱり今学んできた層がだんだん上がってくれば、健康を含めて何か問題があったらITを活用するという発想が当たり前になってくると期待しています」

金生 「IT側の進化もありますよね!?今、当たり前にやらないとならない操作が必要なくなるなど。もうITを意識しなくてもよいレベルになっていくのではないでしょうか」

渡辺 「将来的には大丈夫そうだと。ただし今の高齢者が課題になるわけですね?」

金生 「日本の社会保障の中で1番課題なのは、団塊の世代以上の世代ですよね!?今の20代が高齢者になる頃には、などと話しをしていたらもう遅いわけで(笑)この危機をどう乗り越えるかと考えると、待ったなしの状況なのだと思っています」

渡辺 「そこはもう少し現場レベルでの対応が必要ですよね!?そこまではウィットさんとしてはなかなか踏み込みにくいところですか?」

天辰 「そうですね。会社の規模も大きくはないので、まだ的を絞った活動をしたいというのが正直なところです。高齢者向けのサービスはITだけではなく人を絡めることが重要だと思いますが、弊社の規模で人的なサポートを多くの人に届けるような事業には手を出しづらいのが現状です。
とは言え、考えてみると最初に人的なサポートが入れば、その後はアプリ等で大丈夫というケースは複数ありますね。クリニックの医師が患者さんに“あすけん”を勧めてくださっているケースもかなり増えてきています。患者さんが『自己管理しやすい』と、すごく喜んでくれたなど話しを聞くことがあります。きっかけは人ですが、その後にITでサポートするという流れであれば活用を広げていけるかもしれません」

渡辺 「ファイザーさんとしても、このような取組みについて、まだ答えがあるわけではないので、いろいろな形で触れていかないとわからないでしょうし、自分達で失敗しないとわからないものもいっぱいあると思います。例えばウィットさんがやっている取組みの中をしっかりと見ていってみようなど、そのようなこともしていくのですか?」

金生 「そうですね。我々はテクノロジーを理解することにかなり時間かけていますし、先ほど話しました、待ったなしの大きな課題に直面しているので、対策を講じないとならないわけです。一方で楽観視しているのは、最近、特にデジタル関連やテクノロジー関連の広がりのスピードが速いじゃないですか!?ですので、何かベストプラクティスが生まれれば、一気に展開することも可能だと思っています。
もちろん医療の業界は、いろいろな人たちが絡んでいますから、そこのコンセンサスを取ることについては、時間をかけて慎重に作っていかなければいけないと思っています」

 

 

今まで多くのインタビューや座談会を行ってきましたが、医療業界と予防業界のプレイヤーに同時に登場いただくような場を作り、内容として面白いものにしていくことは、なかなかできず、実現してきませんでした。
しかしモバイルヘルスの登場で、一気に急接近してきた印象を受ける今こそと思い企画しました当座談会、いかがでしたか?
『そう簡単にはいかないな』というのが正直なところでしたが(苦笑)、それでも『お互いを少し知ることが出来た』というのは大きな収穫なのではないでしょうか!?話しができたことで、次に取組むべきことも見えてきたように思います。
次のステップでは、もっと踏み込んで、医療と予防の理想的な連携を模索していきたいと思います。

 

>> 【今後のアプリ開発のヒント】医療業界と予防業界の視点の違いから見えることは?(異業種座談会)

現在のアプリ登録数

アプリカテゴリー

デバイス